『う、ううっ』
『どこだ、ここは...』
周りは見渡す限りの緑。
朦朧とした意識の中で記憶を辿るが昨晩、間違いなく俺はいつも通り自宅のベッドで寝た。
『はは、ジブリの世界にでも迷い込んだか』
と、自嘲気味に笑った。
この時点で、明晰夢(夢の中で、夢を見ていることに気付くというあれだ)だと確信していた俺は
(せっかくだから楽しむとするか)
と開き直り、とりあえず歩いてみることにした。
(そう言えば、ここ数年は毎日仕事に追われ、ろくに外出もしなくなったな。)
(これはたまには休めというメッセージなのかもな。)
(明日は休みだし、久しぶりに実家にでも帰るか。)
などと考え、歩いていた。
ザッザッザッザッ。
ウッドチップが敷き詰められていて柔らかく、歩いていてなんとも心地よい。
更にしばらく歩いていると美しい光景が目に飛び込んできた。
川だ。
このときになってようやく気付いたが、やけに喉が渇いている。
俺は無我夢中で川に飛び込んだ。
刺すような冷たさだ。
しかし、そんな事はお構い無しとばかりに俺は水をすくい口に運んだ
...なんて美味さだ。
更に夢中で二度、三度と水を口に運ぶ。
『ふぅ...』
ようやく喉の渇きが落ち着いたと、同時に俺を強烈な違和感が襲った。
(...夢の中なのに、なんでこんなに水が美味いと感じるんだ?)
(そもそも夢の中で喉が渇くなんてことがあるのか?)
そんな不安を増長させるように、川にさらされ続けている俺の足はどんどん冷たさを増していた。
『ハァッ、ハッ...ハッハッ』
俺は恐怖に駆られ走っていた。
途中何度も不安が込み上げてくる。
(まさかこれは夢ではなく現実なのか?)
(だとしたらここはどこなんだ)
(まさか誰かに連れ去られた?)
(いや、バカな。夢だ!夢に決まっている!)
『ハッハァッ! ...ハッハッ』
ほんの数十分前まで美しいと思えた景色も今となっては見る余裕は無くなっていた。
すると突然、道が途切れ、下り階段が現れた
周りを見渡すがここ以外に道は見当たらない。
先に見えるのはトンネルのようだ。
ここに来ての初めての人工物に安堵と不安が入り混じる。
しばらく躊躇していたが、意を決して階段を一歩一歩下っていく。
(頼む!何事も起きないでくれ...!)
と念じながら恐る恐るトンネルを覗き込む。
トンネルには何も居なかった。
『ふぅ...』
と、溜め息を吐くと同時に冷静になり、今度は笑いが込み上げた。
『プッ! 何を必死になってんだよ俺は。ちょっとリアルな夢を見てるだけなのに。あ~あやっぱ俺疲れてるんだなー。』
と独り言を呟きながら、トンネルを抜け、その先の階段を駆け上がった。
しかし、そこは行き止まりになっていた。
そしてそこには古びた石碑が1つだけ建っていた。
【竜ヶ渕】
嫌な予感がした。
次の瞬間
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
地鳴りとも巨大な呻き声ともとれる大音響が辺り一帯を包み込む。
『う、うわぁぁぁぁぁっ!』
俺は恐怖のあまりに腰を抜かしそうになりながら、元来た道を引き返そうと振り向いた。
そして次の瞬間、予想だにしなかったものが目に飛び込んできた。
頭上注意
この時の俺はパニックになっていて、カレンダーの裏紙使ってるとか、絵が微妙に上手いとか、そんなことまで全く気が回らなかった。
(い、いったい頭上に何がいるってんだよ。)
見てはいけない。
本能でそう感じた。
見ずにとにかく元来たトンネルに逃げるべきだ。
俺もそこまでバカじゃない、そんなことは百も承知だ。
でも。
『めっちゃ気になる』
という強烈な衝動に駆られる。
頭上注意なんて煽られて、ご丁寧に方向まで示されて、それでも見ないなんて俺にはムリだった。
『父さん、母さんごめん。もっと早く帰って顔見せるべきだったわ。』
そう小声で呟いた俺は、意を決して恐る恐る頭上を見上げた。
可愛い。
...ていう話。
※この話はフィクションです
~あとがき~
昨晩、ブログ何書こうかなーと、家族で出掛けた際に撮った写真を眺めていたら思いついた話です。
最初の瞼を開く感じを再現するのが1番苦労しました( ºωº )
ちなみに最後の人形はカエルのトム君(ラスベガス出身・14歳)です。
トム無償で出演してくれてありがとー!
それでは皆様、頭上に注意しつつ良い夜を!